医療とはかけはなれた職場でのストレス
私はいつか開業しようと思っていましたので、技術も経営も両方学べるところで働きたいと思っていました。そして、流行っている院は技術があるから流行っていると思っていましたし、実際最初に修業した院も1日に100人以上受診される院でした。
そんな時、知り合いに
「私の知り合いで西成でむちゃくちゃ流行っている院を経営してる人がいて、鍼灸師欲しいって言ってるよ」
と教えていただいたので、即そこで働くことにしました。
西成
働いてビックリ!
1日に250人とか280人とか受診されるんです。勤務初日は本当に度肝を抜かれました。
この院は凄い!治療技術のレベルが相当高いからこんなに流行ってるんだろう。ここで一番になってやる!そう思って頑張りました。
しかし少し働いて内部事情がわかって2度目のビックリ!
その院は決して腕が良いから流行っていたというわけではなく、超がつくほどの過剰なサービス、異常な労働時間でした。これは、要するに受付時間が長いということと、急患でもないのに受付時間が終了してから来院された患者さんも受け入れるという状態が原因だったのですが…
また利益至上主義から、院主催のミーティングや勉強会はほとんど治療技術的な内容はありませんでしたし、あってもかなり低いレベルでした。
患者さんとの会話の仕方(吉本新喜劇を見にいけとよく言われました)、スタッフのモチベーションを上げるために時には怒鳴ったり、時には優しく感動話をしたりと「明らかに医療とは違うモノ」になってしまっていることに、相当の違和感を感じながらも我慢していました。
もちろん、「これではイカン!」と思い、何度も治療レベル向上の提案をしましたが「それで儲かるわけでなない」と全て却下されました。分院長や本院の副院長をさせていただきましたが、毎日「数字だけを考えろ」と嫌味を言われていました。
この頃は凄い危機感を感じ、自分で治療のセミナー等を探して参加したり、知り合いの院に見学にいかせていただいて技術を教えていただいたりして、それを隠れてコソコソ患者さんに使ってマスターしていくということをやっていました。柔道整復師の資格を取得するために学校に通いながら鍼灸師として勤務し、無事柔道整復師の免許を取得しました。
と、ここで3度目のビックリ!
なんとこの院、保険の不正請求をしていたのです。私が知ったのは、私がいつも診させていただいていた患者さんからの相談でした。
「松村先生、私っていっつも週1回ここにお世話になってるよね?」
と治療を始めようとするとそう言われたのです。事務的なことには一切関わっていませんので何もわからない私は正直に答えます。
「そうですね、〇〇さんはだいたい毎週水曜日に来られますよね」
と。
すると
「そうよね。実は区役所から郵便が届いて、それ見たらここ数ヶ月間毎月25日くらい通ってることになってるねん。誰かと間違ってるかもしれへんから、先生確認してみてくれへん?」
と言われたんです。
「これが噂に聞く不正請求か〜」
と思いましたが、まだ確証が持てないので「わかりました」とだけ伝え事務の責任者に報告しにいきました。するとえらい剣幕で怒られました。
「そんなもんこっちは電気当てて全身触ってニコニコしてサービスしとんねん!何カ所触ってる思ってんねん。最高5部位までしか請求でけへんねんぞ!(当時)それやったら足りひんから、日数足してるんや。わかるか?お前もええかげん数字のこと考えよ!〇〇さんにもそうやって言っとけ!」
と言われたんです。
「この院、本当に終わってるな」と思いました。
退職したかったのですが、奨学金を借りて学校に行っていたので、資格を取得してすでに卒業している私は、奨学金の返済があります。「返せなくなったらどうしよう」と不安になりましたが、やはり私は理不尽が嫌いです(笑)そんな迷いは一瞬で切り捨て、退職を決めました。
その患者さんには
「この院は不正請求をしているようです。私は事務的なことに関わることができないのでそれを止めることはできません。なので私も退職することにしました。ですから〇〇さんも不正請求されるのは嫌でしょうから、うちの院に受診するのはお辞めになり、しかるべきところに通報してください」
と伝えました。
するとその患者さんは
「松村先生にはずっとお世話になってるから、先生がいる間はこのまま通院するわ。松村先生が辞めたあとに色々考えます」
と言われました。嬉しい反面、患者さんにも気を使わせるなんて・・・と自分の無力感とこの院の不正行為への嫌悪がその患者さんを治療させていただく度に大きくなっていきました。
次、どこで働こうかな?
最初はそう思っていました。しかし、最初に修業した院は、兄弟子に良い先生はおられお世話になったものの、院長の思考は金儲け優先。そして西成の院はそれだけでなく不正行為までして、なおかつそれが悪いことだと思っていないという始末。
それに、散々現場の責任者をやり、ストレスで内臓を壊してまで(膵炎ページ参照)働いていたにも関わらずこの裏切られようです。
「やはり自分の理想の院を作るためには、自分で開業するしかない」
そう決意しました。
(柔道整復師・鍼灸師 松村正隆 監修)