いざ開業して…

方法はどうあれ、患者さんが1日100人とか200人とか受診する院でずっと働いていたので、私は「開業したら患者さんは来る」と思い込んでいました。

よくよく考えたら立地的にも、最初の院はバス停の真ん前、西成の院は駅から徒歩30秒という立地で、しかも当時すでに開業して10年以上経っている院です。私の院のように、JR西宮駅からも阪神西宮駅からも徒歩6分程度の距離とはいえ、一方通行だらけで人通りのないところにある院に人が来ることはありませんでした。

開業初日はなんとゼロ。あまりにも暇で、漫画を読んでいたのを今でも覚えています。翌日も、そのまた次の日もゼロ。

「おいおい、こんなんでやっていけんのかいな?」

と不安になりました。

しかし、開業したその週の最後に、町内の染殿町の患者さんが1人だけ来てくださいました。その方がご家族やご友人を紹介してくださり、そうやって受診された患者さんがまたご家族やご友人を紹介してくださり…と、急に忙しくなりました。

開業当初からのスタッフだけでは間に合わなくなり、受付スタッフ、そして治療スタッフも雇わないといけなくなってきました。開業して半年ほどで、平均で1日80人以上の患者さんに来ていただけるまでになりました。

この頃は必死でした。来て下さった患者さんを一生懸命治療する、そして患者さんが笑顔で「ありがとう!」と帰られる、まさに理想の院を作ったと思っていました。

ただ、この頃はプライベートでの人間関係に悩まされた時期でもありました。一部の先輩や同級生や後輩は、私が独立開業して、院が流行っているのが気に入らなかったようなのです。

「松村は調子に乗ってる」
「松村は脱税してる」
「松村はなんかあくどいことしてるはずや」

などと根も葉もないことで噂を立てられました。しかも、その噂を聞いた人が

「まあ火のないところに煙は出ないからな」

と私から去っていくということもありました。

ただ、ありがたいことに当時の私は忙しすぎて、凄く嫌な思いはしたし、落ち込んだりもしたのですが日々が忙しすぎてそんなことにかまけている暇がなかったのです。今はもうその人たちとは付き合いもありませんので、どこでどうしてるのかすらわかりませんが、仕事に助けられたと思います。

理想の院から遠ざかるジレンマ

多い時で、受付スタッフ、治療スタッフ合わせて6人ほど雇用している時期がありました。理想の院を作るために開業したはずの私が、スタッフに給料を支払わないといけないというプレッシャーから、自分の理想の院からどんどん離れた院になっていっていることに気がつきながらも、「漕ぎ出した船は停められない」とばかりに、前進するしかない状況になっていました。

また、この時はまだ健康保険の取扱をしていたので、様々な制約があり、患者さんに自分の最高の治療を提供できないジレンマに苛まれていました。

スタッフ雇用・教育に悩まされ…

また、そんなジレンマとは別に、スタッフ問題に常に頭を悩ませるようになりました。

元々、私がこの業界に入った頃は初任給1万円という環境で、正直開業するまでコンビニに行って財布の中身を気にせずに買いたいものをカゴに入れるということはできませんでした。また、もちろんですが雇用保険や社会保険などの福利厚生などはありませんでした。

「私の院で働いてもらうスタッフにはそんな苦労をさせたくない」

と思い、基本給も高めにし、法を遵守して福利厚生もしっかりとつけていました。それだけでなく歩合給なども取り入れ、かなり高い給料を支払うようになっていました。しかし、スタッフは

「彼女にフラれた」
「なんだか気が乗らない」
「給料が安い」(いやいや、業界でも高いほうだったのに!)

などと言い、ダラけた仕事をします。本当は治療セミナーに行きたいのに、経営セミナーに行くことを増やしました。定期的な飲み会、とりあえず褒めること、その他マネジメントなどを学びましたが、そんなことをしている自分がなんだかバカみたいにも感じていました。

我々はプロなわけです。彼女にフラれようが、自分の身体がしんどかろうが、それは患者さんには全く関係のないことで、どんな状況でも全力で仕事をするのが私のプロ哲学です。

例えば、私はバイクの免許を持っていて、開業するまではバイクに乗っていました。バイクも結構楽しくて、たまにツーリングにも行っていました。

しかし、はやりバイクは危険。たとえ自分に責任のない事故であっても、私の手が動かなくなるような怪我をしたら終わりです。だから開業と同時にバイクを後輩に譲り、封印しました。(もちろん今も一切乗っておりません)

患者さんが大切な自分の身体を安心して預けていただくためには、それくらいのプロ意識を持つのが当たり前なのです。それなのに、スタッフをなだめ、すかし、機嫌を取って仕事にやる気を出してもらう…

「この状況はなんだ、まるで幼稚園じゃないか」

そう思って、なんだか仕事に対する情熱まで失いそうになりました。全てが馬鹿らしくなってしまいました。雇用した時はやる気がある素振りをし、それを期待して雇用しては裏切られるということが数年間続きました。この時期ほど人間不信になったことはありません。

(柔道整復師・鍼灸師 松村正隆 監修)

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